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子どもの矯正に抜歯は必要なのか

矯正治療の正解では、100年も前から続いている論争があります。

それがこの「抜歯・非抜歯論争」です。

20世紀初頭、アングルという名の矯正の大先生の時代から始まり、そのお弟子さんであるツィード先生が「矯正治療において抜歯は必要である」という結論のもと治療を始めるころ、この議論は活発化します。ツィード先生が矯正治療において抜歯が必要であると考えたのには理由があります。それは、「後戻り」という問題です。

ツィード先生は、矯正治療を終えた患者さんの何人かに、治療後に歯並びが再び悪くなってしまう人がいることに着目しました。つまり、無理やり歯を並べても、生体に適応できずに、再び歯並びがおかしくなってしまうのです。ですから、抜歯は必要だと考えたのです。その後の時代においても、欧米、アジアといった各地域の矯正歯科医によって、この議論は引き継がれることとなります。神から与えられた臓器(歯もひとつの臓器です)を人が奪うことは不自然である、といった考えや、歯を抜くのは矯正歯科医の努力や技術が足りないからだ、という考え、また、ツィードのように安定した治療後を得るためには抜歯は必要であるという意見も根強くあります。「連続抜歯法」といった、こどものころに将来八重歯になることを予測し、早期から大人の歯を抜いてしまって、将来の八重歯を防止するといった方法すらでてきました。現在でもこの方法は、存在します。現在では、矯正治療のために歯を抜くべきか、抜かざるべきかについての議論は、時代背景、クリニックのある地域、患者さんの年齢、矯正歯科医が行う治療テクニックや考え方(フィロソフィー)によって、整理されつつあります。

必ず抜歯するのが正しいであるとか、絶対に歯を抜かないのが正しいというような白か黒かという問題ではなく、患者さんの状態によってそれは個別に判断されるべきものであるとされています。歯を抜いた場合と歯を抜かなかった場合の治療後のお顔の状態や歯並びの状態の予測を患者さんに説明し、患者さんがどちらを選択するかという視点も重要でしょう。したがって、表題にあります「子どもの矯正に抜歯は必要なのか」についてですが、簡単に、これが答えです!と述べるのは難しい面があります。その子の状態、矯正歯科医の考え方によって、答えが変わってしまうからです。従って、ここからは私の意見を書いていこうと思います。まず、この「子ども」という大きな枠組みを、0〜6歳ごろ、6歳〜12歳、12歳以降の3つくらいにわけて考えてみましょう。まず、0〜6歳についてですが、この頃は、こどもの歯(乳歯)が生えているころです。このころに抜歯を行うことはまずないでしょう。6歳になると、おとなの歯(永久歯)が生えてきます。12歳までにこどもの歯(乳歯)から大人の歯(永久歯)に生え変わっていきます。この時期に、本来の本数よりも多く歯が存在することがあります。これを過剰歯といいます。過剰歯は、状態によりますが抜歯することが多いです。過剰歯があることで適切な位置に大人の歯が生えないことがありますし、歯ならびが悪くなる原因となることがあります。一般歯科医院では様子をみましょうと言われてしまうことが多いため、口腔外科でみてもらうことをおすすめします。12歳を過ぎますと、ほぼすべての歯が大人の歯に生え変わっている頃だと思います。成長期を過ぎますと、歯が生える土台としてのアゴの成長の大部分が終わります。この頃に矯正治療を行い、歯ならびを整えようと思いますと、土台としてのアゴの成長が期待できませんから、歯を抜いて治療をしなくてはならない可能性が発生します。もちろん他の歯を動かして、歯ならびを整えるためのスペースをつくることが可能な場合もあります。しかし、すべての場合において、スペースをつくることが可能なわけではありません。もしくは、そうすることがベストとは限りません。患者さんは、出っ歯になってでも歯を抜かずに治したいでしょうか。そうではないと思います。歯だけをみているとそういったことに気づかないで治療をやりはじめてしまい、思わぬ結果になることがあります。ですから、抜歯して治療すべきか抜歯せずに治療ができるかは、矯正歯科治療に対して十分な修練をつんでいる矯正歯科医にお願いするほうが良いのです。その上で、しっかりとしたカウンセリングの時間を設けてもらい、治療のゴールについてしっかり説明してもらいましょう。

では、次に歯を抜かないために矯正歯科医師ができる治療法について、考えてみましょう。0歳から6歳くらいのこどもの歯ならびのときは、身体がとてもよく成長する時期です。歯が並ぶ土台であるアゴの骨も大きくなる時期です。この時期に、アゴの成長を阻害するような要素を排除することが重要です。現代の生活様式には、こどものアゴの成長を悪くする要素がたくさんあります。これは文明の発達とともに歯ならびの悪い子が増えていることと無関係ではありません。歯ならびが悪いことが文明病であることは、1900年台の初頭から言われていることです。現代の生活様式のなかにあっても、できるかぎり排除し改善することで、お子様の成長を変えることができると考えています。6歳以上になりますと、大人の歯が生えてきます。この時期であれば、矯正装置にてアゴの成長を促進させることができます。私達がおこなっているPRO矯正は、こういったコンセプトにもとづいて治療プログラムが組まれています。歯ならびが悪くなる習癖を除去し、より歯ならびがよくなるようにお口周りの筋肉を整え、舌の位置や鼻呼吸を確立していきます。こうすることで、その子がもつ本来の歯ならびに誘導していくのです。歯ならびが悪いことは遺伝ではありません。6歳になったらぜひPRO矯正を行ってください。成長後の歯ならびに違いがでてきます。こどもの歯から大人の歯に生え変わっていく中で、アゴの成長の遅れを取り戻すために、矯正装置にて上の奥歯を後方に移動させるということをすることもできます。こうすることで、歯ならびの矯正治療のために大人の歯を抜くことを避けられる可能性があります。適切な時期に適切な治療を受けられることが、この可能性をしっかりとしたものとするのです。

インビザラインとよばれる精密なマウスピースを使用した矯正治療も、実はこの奥歯を後方に移動させるという治療が得意です。こどものころにワイヤーで治療を行うことで、虫歯ができてしまったり、見た目が悪かったりといろいろな困難を生じさせます。しかし、インビザラインであれば、矯正装置を取り外すことができ、笑顔の写真を残すことや、おいしい食事を楽しむことがいっぱいできます。金属をほぼ使用しないことも、こどものアレルギーを予防する上で有効でしょう。インビザラインについては、矯正治療を熟知した矯正歯科医に行ってもらう方が良いと思います。

さて、これまでのお話をまとめてみましょう。矯正治療にて抜歯をする必要はあるか、という問いに対しては、その子その子の歯ならびやアゴの成長の状態によって異なり、かつ担当する矯正歯科医の考え方にもやや左右されるということでした。担当する矯正歯科医と治療のゴールについて、しっかりとしたお話し合いが重要ということをお話しましたね。矯正治療を始める時期によっても、歯を抜かなければならないかどうかの判断がかわるということもお話しました。早期に治療することで、将来に歯を抜いて矯正治療をしなければならない可能性を減らすことができるというお話でしたね。治療法によっても、歯を抜かなければならない可能性を減らすことができるということでした。

最後になりますが、歯を抜くというのは大きな決断です。しっかりとしたお話し合いを担当の矯正歯科医としていただくことが良いです。当院では、個別の相談時間を設けています。ぜひご活用ください。